2011.11.17 UP

利用者の視点で弁護士・弁護士会のあり方を考える

向井太志(51期)

日時 平成23年11月7日 午後6時~午後8時30分

場所 大阪弁護士会館203・204

基調講演

「大阪家庭裁判所におけるCS向上プロジェクトについて」
京都大学教授(元高松高裁長官) 林     醇  氏
「医療の世界における顧客満足の視点に立った取り組みについて」
北野病院 病院長        藤 井 信 吾  氏

パネルディスカッション

林     醇  氏
藤 井 信 吾  氏
米 倉 正 実  氏(弁護士 法72条等問題委員会委員)
藪 野 恒 明  氏(弁護士 友新会)
片 山 登志子  氏(企画調査委員会 コーディネーター)

企画調査委員会 研修第三弾

企画調査委員会が行う研修企画。

今回は、「利用者の視点で弁護士・弁護士会のあり方を考える~真の顧客満足とは何か~」と銘打って、顧客の側から弁護士業を捉えなおす機会を持とうというもの。元大阪家裁所長の林氏や北野病院院長の藤井氏らのお話は、われわれ弁護士にもきっと有意義なものとなるはずです。

基調講演―利用者目線での『改革』

林氏は、大阪家庭裁判所の所長時代に、家事調停におけるCS(コンシューマーサティスファクション=顧客満足)向上に向けた取り組みを紹介してくださいました。林氏が所長就任時に調停成立率が30%強に過ぎなかった家事調停の実情を踏まえ、調停不成立は調停の主催者側である裁判所の「紛争解決能力の不足」だとの視点に立ったと当時を振り返り、裁判所を訪れる調停当事者を「顧客」と見て、顧客が紛争解決により満足を得られる機能を高めることを考えたと、当時の改革の根本理念を説明してくださいました。また、林氏は、セクション(職種)を超えた横のつながりを持って改革に取り組むことも大切だとして、組織が一体となって改革に取り組むことの重要性を述べました。裁判所も創意工夫を凝らして「顧客満足度」を高めようという取り組みをしているのだと知り、正直驚きました。

他方、藤井氏は、赤字経営が続いていた京都医療センター院長に就任した当時に、100床以上の入院患者用ベッドが「空き」の状態であったと述懐されました。そしてその原因が職員らの患者受入を拒否する姿勢にあったとし、入院患者を増やすとともに、スタッフの数も増やして、スタッフが余裕をもって患者と接し、患者から満足してもらえるような医療サービスの提供を行うことに腐心したと説明。そのために、病院のカラーコーディネートや壁に飾る絵画にまで気遣いをしたという経験談も。また、病院内に投書箱を設け、利用者の不平不満を吸い上げ、その不満や回答内容を公表することで、業務改善を図っているというノウハウの一端も紹介してくださいました。

ディスカッション―医師は命がけ、さて弁護士は?

パネルディスカッションでは、片山登志子会員(40期)がコーディネーターをつとめ、林氏・藤井氏に、藪野恒明会員(29期)と米倉正実弁護士が加わって、パネルディスカッションが行われました。

(1)弁護士・弁護士会はなぜ今利用者視点を持つ必要があるのか、(2)これまでの弁護士・弁護士会の利用者目線での改革・改善の問題点はなにか、(3)今後、弁護士会は利用者目線での改革としてどのような活動をするべきかという3点について、大いに意見交換がなされました。

藪野会員は、利用者視点を持つ意味は、弁護士法1条の理念を実現するためだと強調。また、利用者目線で改革するべき課題として、(1)弁護士へのアクセス方法の改善、(2)弁護士の提供する業務の質を一定のレベルを保ったものとすること、(3)料金設定を適正且つ合理的なものとすることを挙げました。

林氏は、依頼者の真のニーズを掴んでいない弁護士もいるのではないかと現場経験を踏まえた苦言を呈すると同時に、現在大学で教えている大学院生に対しては、弁護士は社会に横たわる問題を整理し、裁判所に問題提起し、被害の救済や制度の適正化を図るという非常に重要でやりがいのある仕事だということを説いていると述べ、利用者の目線で改革をすることで弁護士会が元気になって欲しいと、最後にエールを送ってくださいました。

藤井氏は、医療は「奉仕」の精神で支えられているが、特に医師は常に「責任」を伴うものであると述べ、患者のことで夜中に目覚めてしまうこともしばしばであって、命を削りながら日々業務にあたっていると、医師の置かれた環境を解説し、非常にシビアな世界であることを確認。それに対して弁護士はやや「甘い」世界にいるのではないかと、こちらも厳しいご指摘がありました。やはり依頼者に対して十分な「説明」をすることが重要だとも述べ、弁護士を利用した経験がある者として的確なご意見を頂戴しました。

米倉弁護士は、裁判官として事実認定や証拠評価ができるだけの能力を弁護士は常に備えておかねばならず、訴訟に至った場合のリスク等を踏まえた総合的な判断能力を身につけて、依頼者の信頼にこたえることが大切だと述べました。

最後に、藪野会員は、弁護士のアイデンティティは「法に適った紛争解決」にあるのであり、法に基づく適正な問題解決を図ることができる士業として、弁護士・弁護士会をアピールしていくべきだとして、ディスカッションを締めくくりました。

刺激的な一夜

市民相談窓口の苦情をもっとオープンにして会員の業務改善につなげるべきだという藪野会員からの具体的な提言も斬新でした。また、特に、異業種の世界に身を置く林氏と藤井氏の業務改革の取り組みは、とても共通点が多く、改革に向けて組織が「一体」になる雰囲気づくりが重要なのだと強く認識させられました。非常に刺激的な一夜でした。

利用者の視点で弁護士・弁護士会のあり方を考える フォトアルバム

以上