2017.03.28 UP

講演会「これだけは知っておきたい!弁護士のためのTPP基本講座」

友新会企画調査委員会副委員長 松岡伸晃先生(47期)

1.平成28年度企画調査委員会は、3部会に分かれ、部会毎にテーマを決定し講演会、シンポジウム等を行うこととなった。第2部会では、米国大統領選挙の状況から少し勇気が必要であったが(理由は後述)、新聞等でよく耳にし弁護士業界にも影響があるような話しも聞くが、今ひとつ内容がはっきり分からないTPP協定(環太平洋戦略的経済連携協定)を取り上げた。

2.このテーマは、当委員会だけでなく、業務対策委員会も兼ねてから興味を示されていたため、共催として参加していただき、業務対策委員会小林寛治委員長、企画調査委員会下谷友和副委員長、同井上彩委員と私が中心となり準備を進めた。

その結果、貿易拡大・経済協力促進を目的とする日本貿易振興機構(ジェトロ)大阪本部の堤章氏、およびTPP問題に詳しい大阪弁護士会の藤本一郎会員に講師をお願いし、貿易・TPP協定の基本的知識、同協定が今後弁護士業務に及ぼす影響について講演会を行うことになった。

3.講演会は、平成28年12月12日(月)午後6時30分から8時30分まで、「これだけは知っておきたい!弁護士のためのTPP基本講座」と題し、弁護士会館1203号室において開催された。

まず、堤章氏からは、日本の経済連携協定(EPA)の取組状況や、TPP参加国の自由貿易協定(FTA)の発効状況などを概観しつつ、TPPの分野別概要、関税(TPP税率の調べ方や通常適用される関税との比較)、原産地規制(TPPにおける原産性の判断基準・判定方法)などについて分かりやすく解説がなされた。

次に、藤本会員からは、TPP協定の第10章「国境を越えるサービス貿易」を中心として解説がなされた。その主なポイントは次のとおりである。すなわち、(1)第10章は、原則として全てのサービス業務に適用され弁護士業務もこれに含まれる。(2)しかし、ネガティブリスト(附属書Ⅰ及びⅡ)に適用を除外する規定を置けば適用を受けないことになっており、弁護士法上の措置(弁護士資格・所属弁護士会内における事務所設置など)及び外弁法上の措置(外国法事務弁護士資格・所属弁護士会内における事務所設置、年間180日以上の国内滞在義務など)を附属書Ⅰに留保しているため、TPP協定の発効により直ちに弁護士業務が影響を受けることはない。(3)ただし、自由職業サービス(弁護士業務を含む)に関する附属書10-Aに将来の規制緩和の検討を奨励する規定がある。このうち、フライイン・フライアウトの問題(日本において未登録の外国弁護士による一時的な法律事務の提供)およびインターナショナル・パートナーシップの問題(弁護士と外国法事務弁護士の登録がない外国弁護士との共同経営)は、外弁法に抵触する可能性があるが、将来的には交渉事項となってくる可能性があり、弁護士業務にも少なからず影響が及ぶおそれがある。

4.TPP協定は、平成27年10月に交渉参加国閣僚会合で大筋合意に至り、平成28年2月4日に署名された。TPP協定は、国内総生産(GDP)の合計が全体の85%以上を占める6カ国以上が批准すれば発効することになるが、日米のどちらかが欠ければ85%に達しない。折からの米国大統領選挙においては、ヒラリー・クリントン氏はTPP協定に消極的であり、ドナルド・トランプ氏は明確にこれに反対しており、当企画の直前の平成28年11月に大方の予想に反してドナルド・トランプ氏が大統領選に勝利し、「TPPは結局ダメなんじゃないの?」という状況の下、TPP協定の基本を勉強しようという当企画は大丈夫かと非常に不安があった。

しかし、そのような状況下でも53名の会員に参加いただいた。今回の講演において解説いただいたTPP協定の内容や今後弁護士業務に及ぼす事項は、仮に今回はTPP協定が発効しない場合であっても、将来にわたり問題意識として持っていることが重要ではないかと思う。

以上